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辻真先『旅路 村でいちばんの首吊りの木』

辻真先『旅路 村でいちばんの首吊りの木』の読了です。

中編三作を収録した本書は、高水準の作品ぞろいの逸品です。

各編のあらすじ・感想は続きから。


「村でいちばんの首吊りの木」
マンションの一室で、玩具会社に勤める久留島晴子の死体が発見された。
死因は青酸中毒。右手の手首から先が切断されてなくなっていた。
捜査が進むとともに、交際相手で事件以来行方不明となっている弘一に容疑がかかるが……。


弘一の母親とその息子による手紙のやり取りによってストーリーの展開される一編です。
「犯人はなぜ死体から右手を持ち去ったのか?」という謎は、シンプルながら強烈。
解決もこれ以上ないくらいに良くできています。

以下では、本作の真相および仕掛けを明かしています。読まれる方は反転してお読みください。

※※※以下ネタバレ※※※

事件の真相は、久留島晴子と弘一が心中自殺し、そのことを隠そうとした母親が死体を損壊、移動させたというもの。
「語り手 = 犯人」パターンのアレンジですが、他のこのパターンと同様、本作でも巧妙な叙述が多くなされています。
以下では、作中で示された以外の叙述をその本来の意味と共に列挙しておきます。
中には著者の意図を外れた「深読み」もあるかもしれませんが、その辺りはご容赦を。

※ページ数はハードカバー版のものです。

P8「いまにきっと、姿を見せます」 → いつかは死体となって発見される、ということ。

P9 「ちがうちがう、絶対にちがう、信じるんじゃなくて知っているのよ、あの子がどうしてあんなむごたらしいことをするものか!」
→ 心中の事実を知っているので、殺人をしていないと断言している。

P9 「弘一は、二年がかりでとうとうだめだったけど、」
→ 弘一はすでに亡くなっているので「だった」と過去形となっている。

P12 「ちゃんとした用があってきたのならともかく、いわば私は、久留島晴子にとって、招かれざる客ですからね。」
→ 残したボタンの回収という「不純な目的」 (=ちゃんとしていない用) 。心中相手を離れさせた「久留島晴子にとって、招かれざる客」。

P12 「ひきかえそうか……でも、それではあとで困ります。」
→ ボタンの回収ができなくなる。

P15 「でも、エレベーターの中では、正直そんなことでも考えなければ気が滅入りそうだったのよ。そう、弘一と久留島晴子の名を、頭から追い出すために……。」
→ 心中の事実を必死に忘れようとしている。

P15 『「ええと、五〇三号室は、と」降りるとすぐ、左右に外廊下がのびています。「こちらのようですわ」』
P16 『肝心のへやを通り過ぎそうなので、「ここじゃありません」注意してあげると、」
→ 一度部屋に来ているので場所を知っている。(二度、場所を教える描写を入れることでそのことを暗示)

P24 「(ついてくる)母さんはぎくりとしました。」
P25~26 「スピードをあげながら、私は心の中で困りきっていました。(どこまでついてくるつもりかしら)」
→ 車に隠した弘一の死体が発見されるのではないか、と不安。


※※ここまで※※※



「街でいちばんの幸福な家族」
若々しい父親といくらか太り気味だが十分魅力的な母親。小学生の男の子と中学生の男の子。
幸福な家族に見える四人だが、不倫を続ける父親にその不倫相手を憎む母。両親の仲を取り持つ娘に学校でいじめを手伝う弟……各々が隠れた問題を抱えていたが……。


母と娘の日記を介して展開される一編です。
本格としてみると弱いですが、思考が絡み合って生まれる状況は、サスペンスとして良くできています。
物語を挟む「ある風景」も小説としての魅力を高めています。
表題作と比べると出来は落ちますが、それでも水準以上の良作です。


「島でいちばんの鳴き砂の浜」
レジャー建設の進むある島で、民宿を営む老人の墜死体が発見された。
証言が食い違っていたことと、前日に被害者と砂浜の保全を巡って言い争いをしていたことから、建設の進むホテルの社長・唐木東介に疑いが向けられたが……。


「波」や「砂」、「テント」といった物質が語り手を務める一編です。
中核となるトリックはシンプルですが、それを取り巻く構図は、なかなかユニークなもの。
「環境と開発」というテーマに、著者らしい視点からクローズアップした良作です。



以上が各編の感想です。
個人的ベストは「村でいちばんの首吊りの木」
しかし、他の中編にも独自の魅力があり、全体として高水準の中編集です。





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